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シネクドキズムⅡ <コンティニュイティー> (2010-16)

-     音楽と写真と映像の作品

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作品は9つの音楽で構成されており、能の演目「葵の上」を追っています。とはいえ、「葵の上」は下部構造として存在しており、あくまでも作品のカラーや流れを作る上で参考にすることに留まり、音楽や映像が演目を描写しているわけではありません。それぞれが音楽作品として単独でも成り立つように作曲しているので、リコーダー、トランペット、打楽器による自身のポートレートコンサートとも言えます。 

能面はひとたび役者の顔に付けると、その表情に魂が籠ります。そして、角度によって色々な表情を繊細につくり上げます。写真では、面の角度だけではなく、面を照らす照明を動かし様々な角度の影をつくることで、その独特な美を表現しました。映像は、400枚以上に渡る写真を組み合わせ、能面の表情の移り変わりを幽玄に映しだすようモルフィングやモーショングラフィックの技術を使って作成しています 。それぞれの音楽にその映像が織りなっていくことで、二次元の能面に色をつけ、能の持つ美しい世界観を映し出せたらと思っております。制作過程で1番刺激的だったのは、音楽、写真、映像で一つのことを考えた時、伝えたいことを作品に投影するための視点がそれぞれ違い、またその意見を反映し合うことで作品がグッとひきしまってくるのがわかった時です。その化学反応から生まれ相成った空間を現実に存在させるべく用意された舞台で1時間と少し、日常とはかけ離れた世界を味わっていただけたらと願います。   

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撮影に使用した2つの面は、豊橋魚町能楽保存会が保有している愛知県指定文化財で、17世紀初期に当時の「天下一」の称号をもった能面打師の是閑(1526-1616)*(増女)と河内(1581-1657)*(般若)による作品です。 以下は、それぞれの曲に対するノートです。  * 生まれた年は不確かです。

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——— あいちトリエンナーレ2016初演時プログラムノートより 

Introduction:オスモシス・フォニウム (2007)   Osmosis Phoneme for recorder and trumpet

2つの異なった性質の楽器が互いに補い合い、また流れるように浸透し合うように作曲しました。例えば、時にはあたかも一つの楽器で奏でているように、また時にはかけ離れた2つの世界が同時に存在するよう意識しています。タイトルはそのコンセプトからきています。それぞれの楽器がもつ音のイントネーションのパターンをよく考え、音の構造を練りました。音楽全体は、エネルギーの抑揚を作るべく恣意的に構成されています。

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                         ——— 世界初演時プログラムノートより

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この作品は、この編成でおそらく初であろう、デュオ「ミアコ・クラインとサヴァ・ストイアノフ」のために作曲し、2007年8月6日にドイツのリンドウで初演され、またストイアノフ氏のポートレートCDに収録されています。

Scene 2:クロスバウンダリー2「ウェーブフォーム」(2014/16)   Crossboundary II “Waveform” for tenor recorder solo

この作品は、2014年、レクチャー&コンサートシリーズ「クロスバウンダリーⅡ」において鈴木俊哉氏のために書かれたもので、当初は5分弱と短いものでした。今回、シネクドキズムⅡに合わせて改訂しました。「ウェーブフォーム」とは、音の波形:サイン波   、短形波     、三角波      、ノコギリ波     のことです。サイン波が最も基本的な波形で、電話機の受話器を取った時の音です。そこに様々な倍音が加わって派生したものが残りの3つです。波形の性質を音色や音の動きにそれぞれを当てはめて音のキャラクターを作りました。サイン波は通常のリコーダーの音色、短形波は楽器音と高さの違う音を声で同時に出す音色、三角波は楽器音と同音を声で同時に、ノコギリ波は重音(楽器のみで2つ以上の音を出す)。それらの音の動きは、サイン波が上行もしくは下行の音階、短形波が跳躍進行、三角波は上行下行がセットの音階、ノコギリ波は一方向の動きを連続して繰り返す。それらを自由に組み合わせて作曲しました。

このシーンにこの作品をプログラムしたのは、最初から最後までずっと続く繊細な動きから放たれるエネルギーが聴き手の集中力を高めると考えたからです。

Scene 3:フォーカシング (2016)   

               Focusing for tenor recorder, trumpet and percussion

Scene 3から5までは、「葵の上」における六条御息所が嫉妬に狂っていく様を追っています。ここでは、Scene 4、5を支配するマテリアルがいたるところで使われています。そして、その構成は「葵の上」のお囃子の流れに沿って考えました。常に3人の奏者が一緒に動いて音楽をギュッギュッと前へ押し進めていきます。「何かが滞り漂っている。それが近づいているような気がする。」ことを意識して作曲しました。

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Scene 4:フォース・フォワード (2016) 

              Force forward for tenor recorder, trumpet and percussion

ここでは、Scene 3で述べた「何か」が押し出でて正体を現します。定まらなかった「焦点」が一つの方向に向いていくように作曲しました。

Scene 5:ソルヴァント・アクション (2016) * Solvent action for soprano recorder, trumpet and vibraphone

これまで3つの楽器が固まって作っていたエネルギーの形とその質が変わります。今までが固体とするなら、ここは液体です。それくらい違います。ここでは、全体像に沿ってすべての動きがとても恣意的に作曲されています。

Scene 6:トランセンダント (2016)* Transcendent for trumpet solo 

タイトルの『トランセンダント』とは「超越した」「並外れた」という意味ですが、この作品は「葵の上」の中で《生霊として現れたシテ方(六条御息所)が嫉妬に狂って病床に臥せっている葵の上を殺そうとするが僧侶の祈祷に阻まれる》前に、自分の中の鬼と理性とのぶつかり合いによって生まれる感情の荒い波から着想を得て作曲しました。トランペット奏者ストイアノフ氏に自作を演奏してもらうのは今回で4曲目となります。毎作品、彼の素晴らしい演奏と音楽性にチャレンジして作曲しています。この「感情と理性の攻防」、そして最後は鬼となってしまう過程をトランペットソロで作曲したかったこともあり、従来のトランペットソロでは考えられないような音楽を目指しました。

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Scene 7:アンサンブル・ソリタリリー(2016)* 

               Ensemble solitarily for soprano recorder, trumpet and percussion 

能の音楽は西洋のようにテンポや拍子、小節線などを基準に息を合わせてアンサンブルをしません。演者、お囃子、地謡、それぞれ受け継がれてきた形があり、それらの「個」を押しすすめ、刷り込まれてきた「ここぞ」という「間」を持って演奏していきます。息を「合わせる」のでなく「合う」といった方が良いかもしれません。 ここでは「個」をどのように押しすすめていけば、「時にまとまり、時に離れ、しかしながら同じゴールへ向かっていく」厚みのある音の集合体を作ることができるかに拘りました。更に、Scene1のリズムを引用することで、Scene1で述べた「凛とした空気」を回帰し、そこにあった「予期」の応えとなるように作曲しました。 

Scene 8:エンド End

「葵の上」の中でどの部分が一番好きかと聞かれたら、迷わずラストだと答えます。鬼となった六条御息所が浄化され、橋掛りを渡って舞台の下手へ帰っていく時の般若の表情がとても柔らかくみえる気がするのです。激しい舞とお囃子、そして地謡が舞台を支配した後、粛々と帰っていく様は、女面をつけて登場した時の「粛々さ」とは全く違います。すべての膿を出し切ったあとの余韻がその不思議な表情の変化を演出していると感じるのですが、それがとても巧妙だと思います。 ここでは、その演出方法にのっとり、<コンティニュイティー>の終わりを考えました。